【文科省推奨】モンスターペアレントの特徴と対応方法

ゆとり

「また電話が鳴った…あの保護者からだ」ってドキドキすることあるよね・・・

はかせ

急なクレームや理不尽な要求などにどのように対応しているのかな

保護者対応は教員の仕事として当然のことですが、中には常識を超えた要求を繰り返す保護者もいます。一人で抱え込んで疲弊してしまう前に、適切な対応方法を知っておくことが大切です。

本記事では、文部科学省のホームページに掲載している京都市の取り組みを中心に、東京都岐阜県の最新マニュアルも参考にしながら、現場ですぐに使える実践的な対応方法をお伝えします。

この記事を読むと分かること
  • モンスターペアレントの5つの特徴とチェックリスト
  • 初期対応の基本3原則(傾聴・受容・共感)
  • 段階別の具体的な対応フロー
  • 今すぐ使える対応フレーズ集
  • やってはいけないNG対応
  • 組織的対応と専門家の活用方法
  • 対応指針から学ぶ法的根拠
  • 犯罪類型と刑罰(暴行罪・脅迫罪など11種)
  • 警察への通報判断基準と相談窓口
  • 教員のメンタルケアとストレス対処法
目次

モンスターペアレントとは何か

公的機関は「モンスターペアレント」という言葉を使わない

実は、文部科学省や各教育委員会の公式マニュアルでは「モンスターペアレント」という言葉は使われていません。

京都市の学校問題解決支援チームの資料では「学校だけでは解決困難な要求等」東京都では「過剰な苦情や不当な要求」岐阜県では「カスタマーハラスメント」という表現が使われています。

なぜでしょうか。
それは、保護者を一方的に「問題のある人」とレッテル貼りするのではなく、子どものためという共通の目標を持つ大人同士として、まずは真摯に向き合うという姿勢を大切にしているからです。

どこからが「過剰な要求」なのか

東京都のマニュアルでは、以下のように定義しています。

学校に対する要望や苦情の中でも、学校が行わなければならないこと以外の対応を求めたり以下のようなハラスメント等を伴ったり、以下の通りであったりするものは、過剰な苦情や不当な要求に当たります。

具体的には・・・

  • 学校の責任範囲を超えた要求
  • 暴言、威嚇、身体的な接触を伴う要求
  • 長時間の拘束や執拗な繰り返し
  • 金銭要求や土下座の強要
  • 教職員の人事に関する要求

岐阜県のマニュアルでは、正当なクレームと過剰な要求の境界線を図で明確に示しており、上層1〜5の段階及び傍ら性をあまりにも要求水準が高すぎる場合や、要求水準を満たす手段・態度・表現方法の強弱が強すぎる場合を「カスタマーハラスメント」としています。

よく見られる5つの特徴【チェックリスト付き】

京都市の31件の対応事例、東京都の調査データ、岐阜県の類型分類から、過剰な要求を行う保護者に共通する特徴が見えてきました。

【特徴チェックリスト】

以下の項目に複数当てはまる場合は、組織的対応が必要なケースの可能性があります。

タイプ1:両問形式・反復型

  • 同じ要求を何度も繰り返す(京都市の事例では100回以上の記録も)
  • 一つ解決しても次の要求が出てくる(要求の肥大化)
  • 説明を尽くしても納得しない(京都市調査:23.5%が経験)

タイプ2:暴言・威嚇・身体型

  • 大声で怒鳴る、暴言を吐く(京都市調査:15.4%が経験)
  • 教員の胸倉をつかむ、顔を殴るなどの暴力
  • 威圧的な態度で脅迫めいた発言をする
  • 長時間の拘束(数時間に及ぶ面談の要求)

タイプ3:権限型

  • 「教育委員会に言う」「文科省に訴える」などの発言
  • SNSやインターネットでの誹謗中傷をほのめかす
  • マスコミに訴えると脅す
  • 「誠意を見せろ」と金銭要求や土下座を求める

タイプ4:精神的不安定型

  • 感情の起伏が激しい(京都市調査:14.1%が経験)
  • 被害妄想的な発言が多い
  • 話の内容が二転三転する
  • 医療的ケアが必要と思われる混乱状態

タイプ5:子どもを利用する型

  • 「子どもを学校に行かせない」と言う(京都市調査:11.6%が経験)
  • 要求が通らなければ登校させないと脅す
  • 子どもの養育を放棄し、学校に丸投げする

京都市の実態:どれくらいの学校が経験しているのか

京都市が平成22年度に実施した調査では、驚くべき実態が明らかになりました。

  • 22.3%の学校が「学校だけでは解決困難と感じたケースがあった」と回答(133件)
  • 対応期間は6ヶ月以上が40.6%と長期化傾向
  • 96.5%の学校が組織的対応を実施しているものの、解決には至っていない

対応に苦慮した具体的な内容(京都市調査より)

  1. 説明を尽くしても納得してくれない:23.5%
  2. 暴言や威圧的態度:15.4%
  3. 保護者自身が精神的に不安定:14.1%
  4. 要求が通らなければ子どもを登校させない旨の発言:11.6%

注目すべきは、単純な要求の問題だけでなく、子どもへの悪影響を懸念する回答が計25.5%もあったことです。

  • 保護者との関係悪化で子どもに悪影響:7.8%
  • 対応過程で子どもに悪影響(精神的ショック等):6.1%

つまり、過剰な要求への対応は、最終的には子どもを守るために必要なのです。

教職員への深刻な影響(京都市調査より)

京都市の調査では、教職員への負担も明らかになっています。

  • 精神的に多大なストレス:50.3%
  • 時間に追われ、授業準備や他の校務に支障:39.2%
  • 精神的な負担から病休又は休職:1.7%(3件)
  • 精神的な負担から退職:1.7%(3件)

決して他人事ではない、深刻な問題なのです。

一般的なクレーマーとの違い

「クレーム」は学校を良くする貴重な声

東京都のマニュアルでは、保護者からの意見を以下のように整理しています。

【保護者からの声の種類】
素朴な質問・相談

不満・要望・苦情正当なクレーム
これは学校改善のチャンス!

【初期対応が不適切な場合】

過剰な要求・無理難題
適切な対応が必要

重要なのは、最初は素朴な質問や正当な不満だったものが、学校の対応次第で過剰な要求に発展してしまうことがあるという点です。

逆に言えば、初期対応を適切に行えば、多くのケースは協力関係に転じる可能性があります。

学校特有の難しさ

一般企業のクレーマー対応と学校の保護者対応では、決定的な違いがあります!

関係性
一般企業取引終了で関係解消可能
学校卒業まで関係継続が必須
子どもへの影響
一般企業なし
学校保護者対応が子どもに直接影響
対応者の立場
一般企業専門の窓口担当
学校教育者本来業務は指導)
完全拒否
一般企業可能な場合あり
学校教育を受ける権利があり困難

東京都のマニュアルでは、この点を以下のように指摘しています。

学校問題の対応においては、単純な相手方との関係で決着できない学校特有の苦悩があります。対応過程で子どもに悪影響が出る可能性を常に考慮しなければなりません。

実態調査から見えた深刻な状況

具体的な事例(京都市・対応事案31件より)

京都市が平成19〜23年度に対応した31件の事案には、以下のような深刻なケースが含まれていました:

小学校の事例(18件)

  • 子どもが不当な扱いを受けたとして担任交代・慰謝料を要求
  • 教育方針への不服で子どもを登校させない
  • 同じ要求を100回以上繰り返す
  • 教員の胸倉をつかむ、顔面を殴るなどの暴力
  • 教員を長時間拘束する
  • 土下座・金銭を要求する
  • 子どもの養育を放棄し、学校で面倒を見るよう要求

中学校の事例(11件)

  • 攻撃的言動を繰り返す
  • 精神的に不安定で、感情の起伏が激しい

3つのパターン:「子どもを学校へ行かせない」

京都市の資料では、特に深刻な「子どもを学校へ行かせない」という主張を3つのパターンに分類しています。

主張パターン

パターン1:学校への不信感
学校や教員への不信感から、子どもを登校させない

パターン2:交換条件
要求が通らなければ登校させないと、交渉材料に使う

パターン3:個別的手段
集団教育になじまないとして、個別対応を求める

これらは、子どもの教育を受ける権利を侵害する可能性があり、学校教育法第16条・17条・20条・21条を根拠に、適切な対応が求められます。

保護者と子どもの背景にあるもの

京都市の資料では、過剰な要求の背景に以下のような要因があることを指摘しています。

子どもの側の要因
  • 発達特性による困難さ
  • クラス内での孤立
  • 不安が高い
保護者の側の要因
  • 保護養育力の低さ
  • 社会的孤立
  • 精神的不安定

つまり、単に「困った保護者」として切り捨てるのではなく、背景にある困難さに目を向け、適切な支援機関につなぐという視点も重要なのです。

初期対応が9割を決める・基本の3原則

東京都のマニュアルでは、「無理難題と捉えるか?連携の第一歩にするのか?」という問いかけで始まります。

実際、京都市や東京都、岐阜県、全てのマニュアルで最も強調されているのが初期対応の重要性です。

基本の3原則:傾聴・受容・共感

傾聴(けいちょう)
相手が何を伝えたいかに意識を向け、話を注意深く、真摯に耳・目・心を用いて聴くこと

受容(じゅよう)
相手の存在を認め、先入観を脇に置いて、話の本質的な内容を受け止めること

共感(きょうかん)
相手の立場になって、その気持ちと背景を理解し共有すること

東京都のマニュアルでは以下のように説明しています。

「相手が今このようにしているのには、無理もないやむにやまれぬ何かの事情があるのだ」と想定して、本当は何を言いたいのか、また、本当は何を望んでいるのかを聴き取ろうとすることで、背景に隠れていることが見えやすくなります。

心理的事実と客観的事実を区別する

これは最も重要なポイントです。東京都・岐阜県のマニュアルで詳しく解説されています。

以下の2点を区別して事実に基づいて伝えるよにしましょう。

心理的事実:その人が心で感じた事実
客観的事実:実際にあった事実

【対応例】子ども同士のトラブルを訴えてきた保護者に対して

良い例
「この度は、御心配をお掛けして申し訳ありません。事実関係については調べた上で、またお話をさせていただきます」

悪い例1(客観的事実が不明なまま謝罪)
「この度は、指導上の不手際により、トラブルが起こってしまい、申し訳ありません」

悪い例2(言い逃れ)
「私どもに限ってそんなことはないとは思いますが…」

なぜこの区別が重要なのか?

東京都のマニュアルでは以下のように説明しています。

「客観的事実」の確認をしないうちに謝罪すると、責任の所在が不明確なまま、全面的に相手の言い分を認めたことになります。また、言い逃れをしては、相手の不信感が増すばかりです。

岐阜県のマニュアルでも、具体的な対応フレーズを示しています。

心理的事実への対応
  • 「お気持ちは分かりました」
  • 「そのような気持ちにさせてしまい申し訳ありません」
  • 「ご心配をおかけしました」
客観的事実への対応
  • 「事実関係については調べた上でお答えします」
  • 「〇〇については確認してお答えします」
  • 「現在調査中です」

記録は「客観的に」「5W1Hで」

京都市の資料では、法的視点からの提言として「情報把握(5W1H)」が強調されています。

記録の取り方の基本

良い例(客観的)
「保護者(父)が、怒った表情で『担任を出せ』と言いながら、職員室に入ってきた」

悪い例(主観的)
「保護者が、攻撃的な態度で、暴言を吐きながら、職員室に乗り込んできた」

5W1Hで記録する

  • When(いつ)
    〇月〇日〇時〇分
  • Where(どこで)
    職員室、校長室、電話など
  • Who(誰が)
    保護者(父・母・祖父母等)、担任、校長等
  • What(何を)
    具体的な発言内容(できるだけ正確に)
  • Why(なぜ)
    訴えの理由、背景
  • How(どのように)
    態度、表情、声のトーン等

岐阜県のマニュアルでは、ICレコーダーでの録音も検討することを勧めています。

すぐに管理職へ一報

東京都のマニュアルでは「対応直後に管理職へすぐ一報」というタイトルで、以下のように強調しています。

担任等が一人で抱え込むことにより、早期に行うべき適切な対応を逸してしまうことが多くあります。「自分一人で処理したい。公にしたくない」という思いが、かえって問題を大きくしてしまいます。

ホウレンソウはチョウリしてカクニン
ホウレンソウ:報告・連絡・相談
・チョウリ:調整・理解
・カクニン:確認

組織として誰が何をするかを調整し、お互いに理解し、進捗を確認することが重要です。

いじめは速やかに報告(法的義務)

東京都のマニュアルでは、いじめに関する抱え込みの禁止を法的根拠とともに明確に示しています。

いじめ防止対策推進法第23条により、教職員はいじめの事実があると疑われるときは、速やかに学校いじめ対策委員会に報告することが義務付けられています。

「疑いの時点で」報告することになっており、事実の有無とは関係なく組織で共有することが法で定められています。

いじめに関する対応は以下の記事を参考にしてください。
【いじめ対応マニュアル完全ガイド】教員が知っておくべき実践的対応法
【文部科学省】いじめ防止対策推進法って何?簡単解説

段階別対応フロー|具体的な対応手順

ここでは、東京都・岐阜県のマニュアルを基に、段階的な対応方法を解説します。

【フェーズ1】初期対応(担任・担当教員)

ステップ1:落ち着いて話を聴く

  • 複数で対応する(少なくとも2名以上)
  • 傾聴・受容・共感の姿勢で
  • メモを取りながら聴く(5W1Hを意識)

ステップ2:心理的事実に共感する

「そのようなお気持ちにさせてしまい、申し訳ございません」

ステップ3:客観的事実は調査を約束

「事実関係については、関係者に確認した上で、改めてご説明させていただきます」

ステップ4:管理職へ即報告

対応後すぐに副校長・校長へ報告

【フェーズ2】組織的対応(学校全体)

ステップ1:役割分担を決める

東京都のマニュアルでは、以下のような分担例が示されています。

  • 電話での保護者との対応窓口
    副校長
  • 子どもからの聴き取り、状況把握
    担任、学年主任
  • 子どもの心のケア
    教育相談担当、養護教諭、スクールカウンセラー
  • 家庭的背景の分析と支援
    スクールソーシャルワーカー

ステップ2:「見立て」と「手立て」の検討

東京都のマニュアルでは、事案の分析を「見立て」、対応方針を「手立て」として整理しています。

見立てのポイント
  • 要望や苦情の趣旨、背景は何か
  • 要望や苦情と事実との間に因果関係はあるのか
  • 子ども自身が望んでいる対応は何か
  • 真に子どものためになる対応は何か
  • 学校ができることと、できないことは何か
手立てのポイント
  • 学校はどういう事実に対して、何をどう改善するのか
  • 保護者にどう説明し、理解を求めていくか
  • その対応は、他の子どもや保護者にも理解されるか
  • 外部の専門機関に協力を要請できるか

ステップ3:面談の設定

岐阜県のマニュアルでは、面談時の座席配置まで具体的に示されています。

  • 対面に座ることを避ける
    (L字型や同じ側に座る)
  • 複数で対応
    (1対1は避ける)
  • 時間を事前に設定
    (「〇時から〇時まで」と明確に)
  • 役割分担
    (進行役、記録役、場を和らげる役など)

【フェーズ3】調査と報告

子どもからの聴き取りの留意点(東京都マニュアルより)

  • できるだけ速やかに行う
  • 当該児童生徒だけでなく、周辺児童生徒も対象とする
  • 事前に保護者に同意を取る
  • 複数の教職員で行う
  • 誘導尋問にならないよう注意(「はい」「いいえ」だけで終わる質問は避ける)
  • 直接見聞きした事か、伝聞かを区別する
  • 聴き取りは子どもにストレスを与えるので、できるだけ1回で終える
  • 心のケアに十分配慮(場合によってはスクールカウンセラーも同席)

調査結果の報告

東京都のマニュアルでは、調査結果の報告の際の留意点として・・・

  • 時間と場所を確認しながら、話合いの場を設定
  • 一方的な報告ではなく、対話形式で
  • 定期的な報告(対応に時間がかかる場合)
  • 子どもの人権と成長を最優先に考えた対応策の確認

【フェーズ4】継続的な関わり

東京都のマニュアルでは「継続的な関わりを徹底する」として、以下を挙げています。

  • 話合いが終わっても、子どもの様子を継続して観察
  • 子どもの様子や学校側の改善努力を定期的に保護者に報告
  • 家庭での様子も聴きながら、互いのコミュニケーションを継続
  • PDCAサイクルで状態を常に見直す

今すぐ使える対応フレーズ集

東京都・岐阜県のマニュアルから、現場ですぐに使える具体的なフレーズをまとめました。

初期対応のフレーズ

心理的事実への共感

  • 「そのようなお気持ちにさせてしまい、申し訳ございません」
  • 「ご心配をおかけしております」
  • 「お子様のことを心配されるお気持ち、よく分かります」

客観的事実の確認

  • 「事実関係については、関係者に確認した上で、改めてご説明させていただきます」
  • 「〇〇については調べた上でお答えいたします」
  • 「現在、状況を確認しているところです」

経過報告

  • 「今日は、学級担任が子どもたち一人一人から話を聴き、事実関係を整理したところです。あと、何点か確認した上で、関係教職員で対応策を検討いたします。もう少しお待ちいただけないでしょうか」

落ち着いてもらうためのフレーズ(岐阜県マニュアルより)

威圧的な態度への対応

  • 「できる限りのことをさせていただきますので、冷静にお話しいただけませんか」
  • 「この場では、落ち着いてお話しいただけると助かります」
  • 「そのような言い方はやめてください」
  • 「大声を出されては困ります。申し訳ございませんが、落ち着いてお話しください」

長時間対応への対応

  • 「本日はこれで失礼させていただきます」
  • 「〇〇については、次回お話しさせていただきます」

同じ話の繰り返しへの対応

  • 「その件については、先ほどお答えした通りです」
  • 「理想としてお考えのことは分かりましたが、これ以上は対応できません」
  • 「高ら遣いしてお話ししたいただけないでしょうか。感情を出されないと話が進みません」

限界設定のフレーズ

できることとできないことを明確に

  • 「〇〇については対応させていただきますが、△△については学校としては対応が難しい状況です」
  • 「学校としてできることは、〇〇までとなります」
  • 「それ以上のご要望につきましては、学校の範囲を超えておりますので、対応いたしかねます」

教員人事に関する要求への対応

  • 「担任の交代につきましては、学校の人事に関わることですので、お受けできません」
  • 「教職員の人事については、校長が決定いたします」

金銭要求への対応

  • 「金銭でのご要求については、お受けできません」
  • 「学校の責任の範囲については、教育委員会と協議の上、適切に対応させていただきます」

録音・撮影への対応(東京都マニュアルより)

録音を求められた場合

  • 「なぜ録音が必要だとお考えなのですか?」(理由を尋ねる)
  • 「こちらの発言等に責任をもつために、録音させていただけますか」(学校側から提案)

撮影を求められた場合

  • 「承諾のない撮影やその画像の開示により、法的責任が生じることがあります」

やってはいけないNG対応

一人で抱え込む

東京都のマニュアルでは、いじめ事案での抱え込みが法律違反になることを明確に示しています。

学校の教職員がいじめを発見し、又は相談を受けた場合には、速やかに、学校いじめ対策組織に対し、当該いじめに係る情報を報告し、学校の組織的な対応につなげなければならない。すなわち、学校の特定の教職員が、いじめに係る情報を抱え込み、学校いじめ対策組織に報告を行わないことは、同項の規定に違反し得る。

いじめ以外のケースでも、抱え込みは問題を長期化・深刻化させる最大の要因です。

客観的事実が不明なまま謝罪する

前述の通り、心理的事実と客観的事実の区別が重要です。

「この度は申し訳ございませんでした」だけでは、何に対して謝罪しているのか不明確で、後に「学校が全面的に非を認めた」と解釈される危険があります。

その場しのぎの約束をする

  • 「できるだけ対応します」→ 曖昧な表現は避ける
  • 「検討します」→ いつまでに、誰が、何を検討するのか明確に
  • 「何とかします」→ 具体的に何をどうするのか示す

東京都のマニュアルでは以下のように警告しています。

その場しのぎの不用意な発言、言い逃れは、その後の対応を長期化させてしまうことにもつながります。

言い逃れをする

岐阜県のマニュアルでは、以下のような発言を避けるよう指導しています。

  • 「そんなはずはないと思いますが…」
  • 「私どもに限ってそのようなことは…」
  • 「前例がないので…」

これらは保護者の不信感を増幅させるだけです。

安易に対面させる

東京都のマニュアルでは、いじめの被害・加害双方の保護者対応について、以下のように注意を促しています。

双方が険悪な状態であるにも関わらず、安易に対面させたことによって、まさに「売り言葉に買い言葉」の応酬になる。

拙速に対面させることなく、その必要性や時期を慎重に検討することが求められます。

一人で抱え込まない「組織的対応の重要性」

チームとしての学校

東京都のマニュアルでは、「チームとしての学校」という概念を強調しています。

学校や教職員だけでは十分に解決することができない課題も増えており、「チームとしての学校」の体制を整備して専門家と連携していくことが求められています。

活用できる専門家

校内の専門家

  • スクールカウンセラー(SC)
  • スクールソーシャルワーカー(SSW)
  • 養護教諭
  • 特別支援教育コーディネーター

校外の専門家・機関

東京都の場合
  • 学校問題解決サポートセンター(東京都教育相談センター内)
    • 弁護士、精神科医、公認心理師、警察OB、行政書士、福祉職、保護者代表が助言
    • 「いじめ問題解決支援チーム」「学校問題解決支援チーム」を学校に派遣
京都市の場合
  • 学校問題解決支援チーム
    • 医師、弁護士、大学教授・臨床心理士、スクールカウンセラー、市民代表等で構成
岐阜県の場合
  • 教育委員会の各担当課
    • 教員の指導に関すること:学校支援課
    • いじめ・不登校に関すること:学校安全課
    • 体罰等に関すること:教職員課

その他の連携機関

  • 児童相談所
  • 子ども家庭支援センター
  • 警察(スクールサポーター)
  • 福祉事務所
  • 医療機関

学校サポートチームの活用

東京都のマニュアルでは、全公立学校に設置されている「学校サポートチーム」の活用を推奨しています。

構成メンバー

  • 教職員
  • 保護者
  • 民生・児童委員、主任児童委員
  • 保護司
  • 子供家庭支援センター職員
  • 児童相談所職員
  • スクールソーシャルワーカー
  • 警察職員等

このチームを活用することで、学校の対応の公平性・中立性が担保されることにつながります。

教育委員会への報告

岐阜県のマニュアルでは、管理職が行う教育委員会への報告について、以下のように示しています。

直ちに第一報(口頭)
  • 一次対応では解決が困難と判断されるもの
  • 管理職を通じて、当該教育事務所へ報告
警察官出動要請が必要と判断した事案
  • 一般警察官が出動したもの
  • スクールサポーターが対応したもの
  • 学校が被害届等を提出したもの

警察官出動要請を見送ったが、今後状況の変化により必要になる可能性がある事案

教員のメンタルケア

京都市の調査では、対応した教職員の50.3%が「精神的に多大なストレス」を感じており、病休・休職・退職に至ったケースもありました。

ストレスサイン

以下のようなサインが出たら、要注意です!!

身体面
  • 睡眠障害(眠れない、悪夢を見る)
  • 食欲不振または過食
  • 頭痛、胃痛、めまい
  • 疲労感が取れない
精神面
  • 常に保護者対応のことが頭から離れない
  • 学校に行くのが辛い
  • イライラが収まらない
  • 無気力、何もやる気が起きない
行動面
  • 保護者からの電話に出るのが怖い
  • 授業準備が手につかない
  • 他の教職員とのコミュニケーションを避ける

セルフケアの方法

  • 一人で抱え込まない
    管理職、同僚に必ず相談
  • 記録を残す
    対応したことを記録に残すことで、「やるべきことはやった」という安心感
  • オン・オフの切り替え
    勤務時間外の電話対応は基本的に控える
  • 専門家に相談
    スクールカウンセラーは教職員の相談も受け付けている
  • 教職員相談窓口の活用
    各自治体の教育委員会に設置されている

管理職の役割

東京都のマニュアルでは、管理職の役割として・・・

  • 当該教職員に任せきりにしない
  • 管理職が話合いに同席する
  • 管理責任がある者として代表して話をする
  • 組織として対応方針を意思統一する
  • 教職員のメンタルヘルスに配慮する

法的根拠と対応指針

岐阜県教育委員会は、「保護者等からの過剰な要求や不当な要求等への対応指針」を策定し、教職員を守るための詳細な対応方法と法的根拠を示しています。

録音についての具体的対応

岐阜県の指針では、録音について以下のように推奨しています!!

録音を提案する際のフレーズ
「○○さんのご意見ですので、正確に記録させていただくためです」

録音の効果
録音することを伝えることで、相手方も冷静になり落ち着いて話すことができます。また、「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。

対応困難なケース別の具体的対応

暴力行為への対応

基本的な対応
身体に対する不法な有形力の行使があった場合は、すぐに警察に相談してください。

該当する犯罪と刑罰
  • 暴行罪(刑法208条)
    2年以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 傷害罪(刑法204条)
    15年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 器物損壊罪(刑法261条)
    3年以下の懲役または30万円以下の罰金

暴言・脅迫への対応

使えるフレーズ
・「そのような言い方では、冷静なお話し合いができません」
・「録音させていただきますが、よろしいでしょうか」

該当する犯罪と刑罰
  • 脅迫罪(刑法222条)
    2年以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 強要罪(刑法223条)
    3年以下の懲役
  • 威力業務妨害罪(刑法234条)
    3年以下の懲役または50万円以下の罰金

権限濫用への対応

相手の立場(PTA会長、地域の有力者など)に惑わされることなく、公平に対応することが重要です。

使えるフレーズ
・「すべての保護者の方に公平に対応させていただいております」
・「お立場は理解しておりますが、学校の方針として対応できません」

金銭の要求への対応

基本的な対応
相手方が弁護士を雇って、また、少額訴訟を起こして正当な金銭を求めてくるのは自由ですが、それまでは金銭の支払いに応じる必要はありません。

使えるフレーズ
・「金銭でのお支払いについては、学校としてお応えできません」
・「教育的な解決方法を一緒に考えさせてください」
・「法的な請求については、弁護士を通してお願いします」

該当する犯罪と刑罰
  • 恐喝罪(刑法249条)
    10年以下の懲役

長時間の拘束・業務妨害への対応

使えるフレーズ
・「この件についてはここまでとさせていただきます。これ以上の滞在は業務妨害となりますので、お引き取りください」
・「本日は30分でお願いします」(タイマーを見えるところに置く)

該当する犯罪と刑罰
  • 威力業務妨害罪(刑法234条)
    3年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 不退去罪(刑法130条)
    3年以下の懲役または10万円以下の罰金

セクシャルハラスメントへの対応

基本的な対応
・毅然と拒否する
・即座に管理職に報告
・以降は必ず複数名で対応(同性の教職員を同席)
・密室での面談を避ける

該当する犯罪と刑罰
  • 強制わいせつ罪(刑法176条)
    6ヶ月以上10年以下の懲役
  • 公然わいせつ罪(刑法174条)
    6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 迷惑防止条例違反
    各都道府県により異なる

インターネット・SNSでの誹謗中傷への対応

証拠の保全

  • スクリーンショットを撮る
  • URL、投稿日時を記録
  • 投稿が削除される前に証拠確保

削除要請の方法

プラットフォーム運営会社に削除依頼を行います。以下の相談窓口を活用してください。

相談窓口
該当する犯罪と刑罰
  • 名誉毀損罪(刑法230条):3年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 侮辱罪(刑法231条):1年以下の懲役または30万円以下の罰金(2022年改正)

相談窓口の活用

全国共通の相談窓口

相談窓口連絡先対応内容
警察相談専用電話#9110犯罪に関する相談全般
法テラス0570-078374法的トラブル全般
みんなの人権110番0570-003-110人権侵害に関する相談

刑法の規定一覧

教職員が知っておくべき主な犯罪類型と刑罰

スクロールできます
犯罪名刑法条文刑罰具体例
暴行罪208条2年以下の懲役または30万円以下の罰金殴る、蹴る、胸倉をつかむ
傷害罪204条15年以下の懲役または50万円以下の罰金暴行により怪我をさせる
脅迫罪222条2年以下の懲役または30万円以下の罰金「殺すぞ」などの発言
強要罪223条3年以下の懲役土下座の強要
恐喝罪249条10年以下の懲役脅して金銭を要求
威力業務妨害罪234条3年以下の懲役または50万円以下の罰金長時間の拘束、業務妨害
不退去罪130条3年以下の懲役または10万円以下の罰金退去要請に従わない
器物損壊罪261条3年以下の懲役または30万円以下の罰金学校の備品を壊す
名誉毀損罪230条3年以下の懲役または50万円以下の罰金SNSで誹謗中傷
侮辱罪231条1年以下の懲役または30万円以下の罰金公然と侮辱する
強制わいせつ罪176条6月以上10年以下の懲役性的な身体接触

警察への通報判断基準

すぐに110番通報すべきケース

  • 身体的暴力があった場合
  • 脅迫された場合(「殺すぞ」など)
  • 不法侵入された場合
  • 器物を損壊された場合
  • 現在進行形で危険な状況

警察相談専用電話#9110を利用すべきケース

  • 繰り返される嫌がらせ
  • SNSでの誹謗中傷
  • つきまとい行為
  • 今後の対応についての助言が欲しい

法的措置の進め方

岐阜県の指針では、以下の段階的な対応を推奨しています。

第1段階:警告
口頭または文書で、不適切な行為の中止を求める

第2段階:内容証明郵便
弁護士名で正式な警告文書を送付

第3段階:面会禁止の通告
学校への立ち入りを禁止する措置

第4段階:刑事告訴
警察に被害届・告訴状を提出

第5段階:民事訴訟
損害賠償請求などの民事訴訟を提起

他の自治体の取り組み例

東京都:スクールロイヤー制度
  • 弁護士が学校に直接アドバイス
  • 法的トラブルの未然防止
大阪府:保護者対応支援チーム
  • 弁護士、元警察官、臨床心理士がチーム対応
  • 学校への訪問支援
横浜市:学校問題解決支援チーム
  • 教育委員会に専門チームを配置
  • 24時間相談体制

自分の自治体の支援制度を確認する方法

  1. 「都道府県名 + 教育委員会 + 保護者対応」で検索
  2. 所属する教育委員会のウェブサイトを確認
  3. 管理職に相談窓口を確認

まとめ:子どものために何ができるかを中心に

東京都のマニュアルは、以下の言葉で締めくくられています。

学校問題解決サポートセンターが、常に大切にしてきた考え方は「あくまでも子供にとって何が一番大切なのか」ということです。一度学校問題が起こると、学校も保護者等もいつの間にか、子供を中心とした議論から外れてしまうことがあります。

学校問題発生を「チャンス」と捉える

東京都のマニュアルでは、こう続けます。

だからこそ、教職員の皆さんには、学校問題の発生を、むしろチャンスとして捉えてほしいと思います。学校の姿勢が、本当に子供のことを第一にしていたかどうか、学校の論理や価値観で行動していなかったかどうか等を見つめ直し、改めて学校としてできる対応を問い直し、保護者等と連携して問題解決を目指す体制を整えていく契機とするのです。

対応する際の10のポイント(東京都マニュアルより)

最後に、東京都のマニュアルがまとめた「対応する際のポイント」を紹介します。

  1. 相手の立場に立ってよく聴く
    → 傾聴、受容、共感は対応の基本
  2. 怒りのエネルギーの源はどこから来るのか考える
    → 相手が本当に伝えたいことは何かを考える
  3. 心理的事実には心から謝罪する
    → 心を痛めている相手の気持ちに寄り添う
  4. 話合いの条件を確認する
    → 直接話し合って、誤解のない話合いを構築する
  5. チーム学校で役割分担をする
    → 学校の様々な人材を活用して、できることを考える
  6. 子どもの聴き取りはできるだけ1回で終わらせる
    → 何度も聴くことは子どもの負担になり、記憶の変容を招きかねない
  7. 調査は相手の意向を反映した上で、公平中立に行う
    → 結果に納得してもらうためには、客観的な視点が必要
  8. 記録を取る
    → 学校が正しく対応していることの証拠になる
  9. 対応の不断の改善を図る
    → 対応を常に見直し、行き詰まったら状況を変える
  10. できることとできないことを明確にする
    → 限度を超えた要求を見極め、外部との連携を図る

最後に

過剰な要求への対応は、確かに大きなストレスです。しかし、あなたは決して一人ではありません。

  • 文部科学省が推奨する対応方法がある
  • 各自治体が蓄積してきた知見がある
  • 校内には仲間がいる
  • 専門家の支援を受けられる体制がある
  • 教育委員会がサポートする
  • 法的措置という最終手段もある

一人で抱え込まず、組織で対応する

これが、文科省推奨の京都市資料、東京都・岐阜県の最新マニュアル、全てに共通する最も重要なメッセージです。

困った時は必ず相談してください

多くのケースでは法的根拠があり、毅然とした対応が可能です。一人で悩まず、適切な支援を受けながら、子どもたちのために最善の対応をしていきましょう。

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