いじめ認知件数が多い県の構造と増加原因を徹底分析

令和5年度の調査結果が発表され、いじめの認知件数が過去最多を更新したことが明らかになりました。

この記事では、文部科学省の最新データをもとに、いじめ認知件数の地域差や増加の背景について詳しく解説します。

この記事を読むと分かること

  • いじめ認知件数の全国的な傾向
  • 都道府県別の認知件数の違い
  • いじめが増加している構造的な原因
  • 認知件数が多い県の特徴
目次

いじめ認知件数の現状

過去最多を更新した令和6年度

文部科学省:令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要によると令和6年度のいじめ認知件数は769,022件(前年度732,568件)であり、前年度に比べ36,454件(5.0%)増加した。

児童生徒1,000人当たりの認知件数は61.3件(前年度57.9件)です。

学校種別いじめ認知件数 違い

小学校610,612件
(1,000人当たり101.9件)
中学校135.865件
(1,000人当たり42.6件)
高等学校18,891件
(1,000人当たり5.9件)
特別支援学校3,654件
(1,000人当たり23.8件)

小学校での認知件数が特に高い傾向にあります。

いじめ認知件数が多い都道府県

いじめの認知件数が特に多い都道府県

文部科学省:令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要によると1,000人当たりの認知件数(全国平均:61.3件)で見ると、以下の都道府県が突出しています。

  • 山形県:117.2件
  • 北海道:104.5件
  • 新潟県:102.5件
  • 山梨県:92.6件
  • 千葉県:90.8件
  • 兵庫県:87.8件

いじめ認知件数が少ない都道府県

  • 愛媛県:19.1件
  • 長崎県:19.8件
  • 福井県:22.6件
  • 熊本県:24.9件

最も多い地域と少ない地域では、約5倍以上の差があることが分かります。

一般的に、都市部の方が認知件数が高い傾向にありますが、これは必ずしも「いじめが多い」ことを意味するわけではありません。
文部科学省は以下のように通知しています。

いじめの認知件数が多い学校について、「いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインに立っている」と極めて肯定的に評価する。
つまり、認知件数が多い=積極的に対応しているともいえるのです。

いじめ認知件数が多い県の特徴

なぜ地域差が生まれるのか?

学校の組織体制の充実度

認知件数が多い地域では・・・

  • アンケート調査が頻繁に実施されている
  • 教育相談体制が充実している
  • 教職員の研修が行き届いている
  • 学校いじめ対策組織が機能している

保護者や地域の意識の高さ

都市部では・・・

  • 保護者のいじめへの関心が高い
  • 相談しやすい環境が整っている
  • SNS等のネットいじめへの意識が高い

教育委員会の方針

自治体によって、いじめの積極的認知を推進する方針に温度差があります。

いじめ認知件数が増加している原因

3年連続増加の背景

令和5年度まで3年連続で増加している背景には、以下の要因があります。

いじめ防止対策推進法の理解が進んだ

平成25年に制定された「いじめ防止対策推進法」により、いじめの定義が明確化されました。

現在のいじめの定義
児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの

この定義が浸透し、軽微なものも含めて認知されるようになりました。

積極的認知の推進

文部科学省の通知により・・・

  • 初期段階のいじめも積極的に認知
  • いじめの認知件数が0の学校は検証を求められる
  • 認知漏れがないかの確認が徹底

見取りの精緻化

以下の取り組みにより、いじめの早期発見が進んでいます:

  • 定期的なアンケート調査の実施
  • 教育相談の充実
  • スクールカウンセラーの配置拡大
  • 教職員の観察力向上

SNS等のネットいじめの増加

文部科学省:令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要によると

「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」件数は24,678件で、引き続き増加傾向にあります。

過去の推移

  • 平成27年度:9,187件
  • 令和元年度:17,924件
  • 令和4年度:23,920件
  • 令和5年度:24,678件

オンライン上でのいじめは見えにくく、深刻化しやすい特徴があります。

新型コロナウイルス感染症の影響

コロナ禍による影響

  • 生活環境の変化によるストレス
  • オンライン化によるコミュニケーション不足
  • 登校再開後の人間関係の再構築の困難さ

子供たちを取り巻く環境の変化

  • 保護者の学校に対する意識の変化
  • 児童生徒の休養の必要性への理解
  • 特別な配慮を必要とする児童への対応の課題

いじめの4構造

いじめの持続や拡大には、いじめる生徒「加害者」といじめられる生徒「被害者」以外の「観衆」「傍観者」の立場にいる生徒が大きく影響している。「観衆」はいじめを積極的に是認し、「傍観者」はいじめを暗黙的に支持しいじめを促進する役割を担っています。

最も多いいじめの形態

小・中学校及び特別支援学校 

冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる
軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする

高等学校

冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる
パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる

高等学校では、ネットいじめの割合が相対的に高くなっています。

いじめ重大事態の状況

文部科学省:令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要によると重大事態の発生件数は、1,405件(前年度1,306件)であり過去最多となったものの、前年度からの増加率は
7.6%(前年度42.1%)となり、前年度から低下した。

1,405件のうち・・・・
いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき(いじめ防止対策推進法第28条第1項第1号)768件
いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。(いじめ防止対策推進法第28条第1項第2号)897件



いじめ重大事態の1,000人当たりの発生件数(全国平均:0.11件)で見ると、以下の都道府県が突出しています。いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき

  • 宮城県(0.30件)
  • 富山県(0.26件)
  • 山梨県(0.21件)
  • 兵庫県(0.19件)

認知件数が多いことの本当の意味

「多い=悪い」ではない

文部科学省の見解では・・・

いじめを認知していない学校は・・・・
解消に向けた対策が何らとられることなく放置されたいじめが多数潜在する場合もあると懸念している。

つまり、認知件数が少ない方が問題が潜在化している可能性があるのです。

いじめ認知率91%の小学校

小学校の91.%でいじめが認知されています。
これは・・・

  • いじめの早期発見が進んでいる証拠
  • 軽微なものも含めて対応している
  • 組織的な取り組みが機能している

といえます。

いじめの解消状況

解消率は76.1%

文部科学省:令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要によると年度末時点でのいじめの解消状況は以下の通りです。

  • 解消しているもの:585,349件(76.1%)
  • 解消に向けて取組中:182,511件(23.7%)

解消の定義は厳格で、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. いじめに係る行為が止んでいること(少なくとも3か月継続)
  2. 被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと

安易に解消としないよう、丁寧な対応が求められています。

今後の国の対策

文部科学省の取り組み

令和7年度概算要求では、以下の対策が計上されています:

いじめ防止対策(141億円)

  • スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置充実
  • いじめ対策マイスター制度の新設
  • 「特別の教科 道徳」の着実な実施などによる道徳教育の充実
  • いじめ未然防止教育のモデル構築
  • 「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の周知徹底

社会総がかりでの対応

こども家庭庁とも連携し・・・

  • 学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくり
  • いじめ調査アドバイザーの活用
  • 地域全体で取り組むこどもの悩み相談モデル事業

私が考える本当に必要な「いじめ対策」とは

国の取り組みへの疑問

文部科学省やこども家庭庁は、令和7年度予算として133億円ものいじめ対策費を計上していますが、本当にこれらの施策が効果を発揮するのか、疑問を感じざるを得ません。

新たに設けられる「いじめ対策マイスター制度」や各種モデル事業…

確かに体制整備は重要ですが、予算をつければ解決する問題ではないのではないでしょうか。

いじめは、制度や仕組みだけでは防げません。

認知件数の「数」より大切なこと

いじめ認知件数が多い県は、必ずしも「いじめが多発している」わけではなく

  • いじめを積極的に発見している
  • 早期対応の体制が整っている
  • 組織的な取り組みが機能している

ともいえます。

しかし、本当に大切なのは数字ではなく、一人一人の子どもの心です。

いじめが発生する本当の原因

いじめには、さまざまな要因が複雑に絡み合っている私は考えます。

  • 家庭環境
  • 友人関係
  • 学業へのストレス
  • 自己肯定感の低さ
  • 承認欲求の満たされなさ
  • コミュニケーション能力の未熟さ
  • 社会全体の競争意識

いじめは、ある日突然発生するものではありません。

子どもたちの心に溜まった小さな不満や寂しさ、承認されない苦しさが、歪んだ形で表出したものといえるでしょう。

私たち大人にできること

制度や予算に頼る前に、まず私たち大人ができることがあります。

1. 子どもたち一人一人を大切に見取る

  • 表面的な行動だけでなく、その背景にある気持ちに目を向ける
  • 「いつもと違う」小さな変化に気づく
  • 成績や結果だけでなく、存在そのものを認める

2. 日常的にアンテナを張る

大掛かりな制度やシステムではなく、日々の何気ない観察こそが、いじめの未然防止につながります。

  • 子どもの表情
  • 話し方のトーン
  • 友だちとの関わり方
  • 学校に行く時の様子

これらの小さなサインを見逃さないことが重要です。

3. 抱え、受け止め、認め合う

子どもたちの気持ちが満たされている時、いじめは起こりにくくなります。

心が満たされた子どもは、他者を傷つけません。

私たち大人ができることは

  • 子どもの話に耳を傾ける
  • 失敗を責めず、チャレンジを認める
  • 比較せず、その子自身を見る
  • 「あなたは大切な存在だ」と伝える
  • 無条件の愛情を注ぐ

教師、保護者、地域の大人…立場は違っても、子どもたちを抱え、受け止め、認め合うことで、一人一人の心が満たされていくのではないでしょうか。

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